技術紹介
第6回 固体、液体の比熱容量などの測定
―断熱走査法による定量熱分析―
「断熱走査法による比熱容量の測定」とは
断熱走査法による比熱測定は試料温度を連続的に昇温させて試料の熱容量を測定する方法の一つです。
・ 比較的平衡状態に近い測定値が得られること
・ 熱変化がある場合にその熱変化量(エンタルピー変化)が求められること
・ その熱変化に潜熱の有無がわかること
・ 潜熱がある場合にその潜熱が求められること
などの特長があります。
したがってこの測定法によれば、温度~比熱曲線をはじめ、熱変化量(融解熱、変態熱など)、熱変化温度(融点,変態点)、エントロピー変化(融解エントロピー、変態エントロピー)などが求められます。
この結果、融解や変態の熱分析、状態図の作成、合金の析出現象や加工ひずみの緩和現象、再結晶、化学反応の活性化エネルギーなどの定量的な熱分析に応用されています。
断熱走査法による比熱測定法を考案者にちなんで「長崎-高木法」ともいいます1)。
断熱走査法の測定原理
質量 m の試料を一定電力 w で連続的に加熱し、他の熱の出入がない状態では、温度間隔 Δθ を上昇するのに要する時間を Δt とすれば、比熱 Cs は次の式で与えられます。
Cs=w ・Δt /(m ・Δθ)=(w /m )・1/(Δθ/Δt ) …(1)
(1)式より試料の比熱 Cs は一定電力の加熱のもとでは昇温速度の逆数に比例していることがわかります。測定に試料容器(質量 m’ 、比熱 c )を用いた場合は
Cs=(w /m )・1/(Δθ/Δt )-m ’ ・c/m … (2)
当センター使用の比熱計(アルバック理工製 SH3000型)の構造の模式図を図1に示します。
試料(①)は、試料ホルダー(②)の中の内部ヒータ(⑤)により、一定電力 w (watt)で加熱され温度上昇します。 試料とその外側の断熱容器(③)との間の温度差を示差熱電対⑥により検出し,この温度差がゼロになるように外部ヒータ(④)の電流を制御し断熱状態を実現します。
試料に挿入されている熱電対で温度を検出し、試料温度の逆数を測定し、横軸に試料温度を、縦軸に昇温速度の逆数をプロットすれば、温度~比熱曲線が得られます。
当センターの比熱の測定温度範囲は、-150~850℃、圧力範囲は、大気中または不活性気体中。
試料の形状、量:円柱状(16~19mm径×20~30mm高さ、または同体積の薄板状、フィルム状、粉末)、液体となります。
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①試料 ②試料ホルダー ③断熱容器 ④外部ヒータ ⑤内部ヒータ ⑥断熱制御用熱電対 ⑦スペーサ ⑧遮断板 ⑨ベルジャ |
図1 SH-3000-M 型熱量計
測定例
ステンレス鋼(SUS304):図2の比熱曲線で 600℃付近に段差がみられます。
この熱変化は比較的小さいので断熱走査法以外の測定方法では検出が困難です。
この段差はNi系合金によくみられますが、この原因についてはFe-Ni系の変態、Cr-Ni系の変態など諸説あり、定かではありません。

図2 SUS304の比熱測定
テフロン(ポリテトラフルオロエチレン):室温付近に2段の変態ピークがみられます。(図3)

図3 テフロンの比熱
アルミ合金の比熱、エンタルピーが固体状態から高温の液体状態まで連続的に求められ、融解熱が求められます。(図4、図5)2)

図4 AL-6%MgZn2の比熱

図5 Al-6%Mg Zn2のエンタルピー
参考文献
1) 長崎誠三,高木豊:応用物理,18 (1948), 104
2) 青木豊松:金属,67 (1997), 934
出典:金属,Vol.74 No.7 (2004), pp.104-105.